同人ゲームの潮流A〜「ひぐらし/うみねこのなく頃に」に見るコンテンツとコミュニティ〜 受講レポート byタッカー 2008年10月31日(金)18:00開始で定員350人の会場で9割がた埋まる程よい込み具合でした。 2時間30分の間、携帯電話は一度もならず、私語も無し。 話す側も、質問者・返答者共に実に上手く、かなり聞き応え有るセミナーだったと思います。 第二回目となる今回は、07th Expansion(竜騎士07氏、BT氏)のお二人に、 パネリストが質問する形式で行われました。 以下、敬称を略させていただきます。 (質問者) 七邊信重 (東京大学大学院情報学環 特任助教。研究者の観点からの質問) 三宅陽一郎(ゲーム開発者、DiGRA JAPAN研究委員。ゲーム開発者の観点からの質問。) 有馬啓太郎(漫画家、漫画『月詠』の作者。プロ漫画書きの観点からの質問。) 高橋直樹  (汎用ゲームエンジン「NScripter」制作者。ツール制作者の観点からの質問。) (回答者) 竜騎士07(サークル07th Expansion主催。シナリオ、グラフィックを担当。) BT  (サークル07th ExpansionのHP管理運営。ゲームのスクリプトも担当。) === ※メモ書きを元に内容を一部略して再現しておりますので、  解答回等の言い回しを、実際より【ぶっきらぼう】にしています。  実際は皆さんですます調で大変丁寧にコメントされていますので、ご了承ください。 ※発言者名は(質問、〜〜〜)(返答、〜〜〜)と記載しました。  敬称は略させていただきました。  記載が無い場合は、誰が返答したか覚えていません。 ※特に重要と感じたコメントは■〜〜〜■としました。 =======講演開始======== Q.スタッフの役割分担は?   (質問、七邊) A.竜騎士07:サークル代表。シナリオ、グラフィック担当。   BT   :HP管理。ゲームスクリプト、他担当。   八咫桜 :メインスクリプト担当。   dai   :音楽担当。                   (以上返答、竜騎士07) === Q.同人とはどういう場所?同人と商業の定義は?   (質問、七邊) A.作る過程が違う。企画段階が違う。   「商業」・・・「売れる」事がスタートの前提。   「同人」・・・「面白い」から作る。「売れる」が抜けている。         自分が楽しい事が第一義。作り手が「それまで」と思ったら終わり。   ■両者の優先順位が逆である。■   同人ソフト・・・同人ショップ、同人イベントでしか入手できない。→ 短所   昔と比べると、コミックマーケットや同人ショップによって広く頒布できる様になっているが、   同人ソフトは「売る事」に関しては失念している事が多い。積極的なアピールはまずしてない。(返答、竜騎士07)  (タッカー注釈:短所と言いつつも、それが【悪い事】というニュアンスでは有りませんでした。) === Q.どうやって即売会で売っているのか?   漫画なら試し読みできるが、ソフトはそれが出来ない。  (質問、有馬) A.web上で体験版によりアピールできる。ひぐらしも体験版公開が知られる最初のきっかけだった。   これにより、ネット上のブログ、ニュースサイトの口コミで広がった。   ただ、ひぐらしは、10年前・10年後では同じ反響は得られなかっただろう。   インターネットが隆盛になった「今」だからこそだと考える。    (返答、竜騎士07) === Q.口コミで、商業と同人の差は感じる?  (質問、有馬) A.余り「口コミ」に関しては、特に違いは無いのでは?   (返答、竜騎士07) A.宣伝して無いので、「口コミ」の割合が大きいだけでは? (返答、BT) === Q.同人では「応援しよう」と言うユーザーの感覚が強くなるのでは?  (質問、有馬) A.どうでしょうか?   マイナー作がメジャーになると、少し寂しくなるのはあるかな?   メジャーな作品を一々アピールはしないの。   他人が知らないから、口コミが広がる(盛り上がる)のはあるかな? === Q.ひぐらしや東方が有名だが、他の同人ゲームをどう見てる? A.ひぐらしや東方以外にも、面白いゲームは沢山有る。   この二作しかないと誤解されている。   インターネットによって、皆の価値観が統一され過ぎたのでは?   広まり過ぎて、他のソフトに一度も触れない事があると思う。   コミックマーケットで「今日はひぐらしの為だけに来ました」と言われる方が居るが、   それはひぐらしに対する「愛情」表現だとは思うものの、一方で寂しくも思う。   ■ネットではなく、自分の足で探して欲しい。■     (返答、竜騎士07) === Q.同人で作り始めた経緯は? A.友人のお姉さんが同人作家だった。   また、趣味で漫画を描いていた。   学校のクラスで漫画好きはせいぜい5〜6人。で、コミケに行ったら周りは漫画好きだらけで   びっくりし、同人に興味を持った。これが中学時代。   社会人になって10年ほどは公務員をやった。   1998年頃、二年かけてシナリオ【雛見沢停留所】を完成(これはひぐらしの前の作品)。   この間、自己表現をしたいと言う動機で、色々やって紆余曲折している。これが公務員時代の10年。   サークル名「07th Expansion」は、トレーディングカードのエキスパンジョンが由来。   同人サークルはカードゲームからスタートした。    (返答、竜騎士07) A.テーブルトークRPGで高校時代活動した。冊子を仲間で作成したり。   トレカ(リーフファイト)に興味を持った。   竜騎士07の作ったリーフファイトカードに興味を持ったのが出会い。 (返答、BT) === Q.同人サークルの結成はどうやって? A.人それぞれでは?やりたいから仲間が集まっただけ。   一方、今はインターネット上で仲間を集める事も有る(=物を作る為に人が集まる)。 === Q.NScripterでゲームを作った経緯は? A.2年ほどカードゲームを作った。で、次に何か別の物を作りたい、と。   その頃、八咫桜が月姫に感動。で月姫がNScripterで作られていた。   で、八咫桜がサウンドのベルを作りたかった。   以前作ったシナリオ【雛見沢停留所】を改変した。 == Q.「同人ゲームを買ってプレイする」と言う体験と、   「商業ゲームを買ってプレイする」と言う体験は、   制作者・ユーザーとして、どう違いがあるか? A.作り手としては、ユーザーからの感想も欲しい。   初期の頃は、感想全部に返事を書いていた。   「特定個人の顔が見えるのが同人」「会社としての組織が商業】と、見え方が違うかもしれない。   うみねこでは【うみねこ発表 → ユーザーの反応 → それに対して続きを作成】している。   (返答、竜騎士07) === Q.「ひぐらし」と言うゲームは、如何に「遊び」なんだろうか?   ゲームの定義とは? A.個人的には、■ゲームはコミュニケーションツールであるべきだ、と考える。■   コミュニケーションツールであるなら、小説みたいでもゲームである。   シャーロックホームズ ・・・ 最後まで見ると答えが出ている。   ひぐらしのなく頃に  ・・・ 前編では答え出ない → 考える → ユーザー同士が語り合う → 後編へ   例えば、アクションゲームで誰がやっても同じ攻略法でしかクリアできないなら、   それはコミュニケーションツールてゃなりえない。   ユーザーが議論する「余地」がある事が重要。   例えば、RPGでラスボスをクリアできるパーティがこれしかない場合は、議論の余地が無い。   ■ユーザー同士の「議論の余地」がゲームである、と考える。■   ひぐらしは「八つ墓村」と「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の影響を受けている。   【ゲーム(ひぐらし)とネット】によりゲームとなりえるのは、まさにブレアウィッチと同じ。   (返答、竜騎士07) === Q.ファンコミュを広げる工夫は? A.ユーザーとの議論を楽しみたかったので、BBSを重視した。   それがユーザーにも伝わって、大きくなった。   (返答、BT) === Q.トラブルは? A.絵板、文字板のコミュニケーションが上手く行く様に改良して行った。   ユーザーも寄り良くしたいと思い、色々要望が出て、更に改良した。   多少トラブルがあっても、ユーザーが作品を愛していた事もあって、大きなトラブルにはならなかった。 (返答、BT) === Q.ゲームが終わってからBBSに書き込んでいる部分もゲームでは? A.ゲームの「おつかれさま会」でBBSへのリンクが張ってある。   07th ExpansionのBBSも含めてのゲームだと思う。   (返答、竜騎士07) === Q.人気投票も意識してやった? A.ゲームはコミュニケーションだと思う。   ファンに楽しんで欲しい。   BTも楽しんでやっているし、制作者も楽しみたい。   (返答、竜騎士07) === ●同人文化論(by有馬) === Q.最初に発表するに辺り、何処までの展開を考えていたか?  (質問、有馬) A.5〜6話になると言う漠然とした考えでいた。また最初、執筆速度を過信していた。   そして、2話目(綿流し編)を書き終わった時点で、最後までのビジョンは見えていた。   (返答、竜騎士07) === Q.ヒットしたと言う実感の分岐点は?  (質問、有馬) A.(4作目、暇潰し編)の体験版を公開した(2004年5月)頃   一作目が50部、二作目が100部、三作目が200部、次は四作目を落として過去作品だけで500部。   4作目で1400部だった。     (返答、竜騎士07) === Q.同人と商業ラインの分岐点は?  (質問、有馬) A.メディア展開は、ドラマCDの話は、四作目(暇潰し編)コミケ頒布時にゲームホビーBOX?の   高宮マネージャーが最初。最初は、皆に名詞を配っているのだと思ってた。(汗   実際は、2004年冬ごろ(目明し編頒布時)〜2005年春先ごろにアポが多かった。   (分岐点は)数字の問題ではない。   作り手が「同人ソフト」として作っている限り、同人ゲーム。   「作る過程」によって決まる。     (返答、竜騎士07) === Q.同様のヒットの流れを再現する事は可能か?  (質問、有馬) A.狙っては出来ない。   (返答、竜騎士07) === Q.他にそういう作品は有る?  (質問、有馬) A.(ひぐらしは)偶々話題になっただけで、良い作品は他にもある。  (返答、竜騎士07) === Q.四作目を出して、プレッシャーになった事は有る?  (質問、有馬) A.プレッシャーより遊んで貰える喜びの方が大きい。   目明し編の頃が一番のプレッシャーだった。この頃は、作成中に同人ショップで予約が開始された。   落とせないプレッシャーがあった。今はだいぶ図太くなったが。w  (返答、竜騎士07) === Q.完成させる責任性は?  (質問、有馬) A.二つ重要で、どっちも大事な事。   ・クオリティー   ・納期   ■良い物を定期的にコンスタントに出す事が重要。■   日本では品質の為には納期が遅れてもかまわないと言う風潮があるが、どうだろう?   (タッカー注釈:この↑一文、メモがいい加減で、間違っているかもしれません。)   ファンはコンスタントに出る事を望んでいる。   連載漫画は毎月出るから愛される。不定期では忘れてしまう。   4作目で落としたのは自分としては痛恨だったし、   ひぐらし→うみねこに、続けて出せたことは誇りに思う。  (返答、竜騎士07) === Q.納期優先でクオリティを犠牲にすることがあるのでは?  (質問、有馬) A.それは最初のスケジュール管理が間違っている。   納期に合わせたてクオリティを設定する事が重要。  (返答、竜騎士07) === Q.それは「同人の定義】ではなく、「同人の理想」ですよね?  (質問、有馬) A.そうです。  (返答、竜騎士07) === Q.コミケ西館(同人ソフト)で、趣味人的な所と企業人的な所を両立している人は居ますか?  (質問、有馬) A.有る一定数になると「流通(同人ショップが予約を行う、プレス工場の工程を空ける、等々)」が発生する。   趣味人ではありながら、社会人的責任も生まれる。   それは、ショップの事前予約がボーダー(分岐点)では?   (他のサークルなら)黄昏フロンティアさんがスケジュールを凄くきちんと律している。   逆に、そこまでやっていないと、良い作品にならないのでは?    (返答、竜騎士07) === Q.商業同人について。  (質問、有馬) A.個人的な定義として、   コミックマーケットで頒布していても、数優先で居るなら、商業的同人では?   「好きなものを好きな様に作る」と言う優先順位が逆になる時点で、同人では無いのでは?  (返答、竜騎士07) === ●NScripter編(by高橋) (タッカー注釈:NScripter制作者の高橋氏は、当初、自分が回答する側だと勘違いされていたそうです。         その為、質問内容がより細かくなっています。個人的には面白かったですが。) === Q.ツール「NScripter」は同人は無料、ぢょう行は有料としている。   同人は一つの市場の規模になっており、今後も同人に期待している。   その為、今後も無料公開するつもり。これをどう思う?   (質問、高橋) A.サークル「07th Expansion」には、プログラマが居ない。   「NScripter」ははとても簡単にプログラムが組めるツールである。   このツールが無ければ今日我々がこの場に居る事も無い。大変感謝している。   ひぐらしに影響を受けて、また別の人が新たな創作してくれると嬉しい。   (返答、竜騎士07)   (タッカー注釈:最後の↑一文、メモがいい加減で、間違っているかもしれません。) === Q.ベーシックマガジンとはなんだったか?   対応機種が多かった。また、評論記事が充実していた。どう思う?   (質問、高橋) A.家では親がゲームをやらせてくれなかったが、偶々PCS001が一台余っていた。   その為、自分でゲームを作った。ベーシックマガジンで勉強した。   ベーシックはプログラムの影響が直感的に分かる言語だった。   NScripterも直感的に分かりやすいツールだと感じる。   (返答、竜騎士07)   (タッカー注釈:最後の↑一文、メモがいい加減で、間違っているかもしれません。) === Q.最近のゲームエンジンの発展をどう思う?   今はフラッシュやニコニコ動画が多いが、今後の進化はどう思う?   (質問、高橋) A.今は、作品作りを実現する為の垣根が低くなっている。   より世の中に出し易くなった。昔は垣根が高かった。   これまで発揮できなかった才能の発掘がされるのでは?   (返答、竜騎士07) === Q.これからのゲームエンジンの展望は?   自分はセルアニメとの違いを意識している。   各工程の連携が大事だと思うが、どう思う?   (質問、高橋) A.ひぐらしは、小説・漫画・アニメの中間にある新しいメディア。   サウンドのベルと言うのは、それらの中間地点の良いとこ取りだと思う。   また、サウンドのベルは他よりかなり作り易いと思う。   四つ目の新ジャンルになっても良いと思う。ただ、今はまだPCで読む小説と見られている。   サウンドのベルだからできる表現があると、更に良くなると思う。 === Q.NScripterに求める事は?(欲しい機能は?)  (質問、七邊) A.今はバグがあると強制終了するが、バグがあってもそのまま強引に先に進める様にして欲しい。   バグがあると強制終了するのは、精神的につらいので。(汗   (返答、BT) === ●学術編(by七邊) === Q.日常生活の体験がゲーム作りに影響した側面は?  (質問、七邊) A.大いに有る。   例えばキャラは実社会で出会った人にとてもインスパイアされている。   竜騎士07、BT共に10年の社会人経験がある。   すなわち他の人より10年遅れているわけだが、代わりに、その経験が生かされている。  (返答、竜騎士07) === Q.同人の場で学んだ事は?  (質問、七邊) A.これは私が今でも正しいと思っている事だが、   ■「愛の有る二流」は「愛の無い一流」に勝ると考える。■   どんな経歴があっても、愛情や情熱が無いと、面白いものにはならない。   情熱が無くて凄い仕事をした人を同人界で見た事が無い。   まず情熱!                 (返答、竜騎士07) === Q.仮にスタッフにする人がいれば、その人に求める物は?  (質問、七邊) A.一つ目、情熱(愛)。   二つ目、要社会経験三年以上。常識が無いとまずい。   上下関係を守る場面と、フランクで良い場面が分からないと。   組織力が重要。   「自分が何を愛しているのか?」が分かっている人と分かっていない人の開きが大きい。   例えば「ゲームが好き」と言うのも、「ゲームを遊ぶのが好き」なのか「ゲームを作るのが好き」なのか?   「ゲームを作るのが好き」と言う所まで気付いているだろうか?      (返答、竜騎士07) === Q.ユーザーに求める物は?期待する物は?  (質問、七邊) A.色々な作品を意欲的に遊んで欲しい。   聞いた事の無い作品に、どんどん飛び込んで欲しい。   同人だけでなく商業でも同様。   ■自ら冒険して色々なゲームに触れて欲しい。■  (返答、竜騎士07) === 来場者の質問コーナー === Q.BBSのアクセス人数、ユニークユーザー数は?何%の人がコミュニティに来る?   規模によってその内容が変わってくるのでは? A.熱心な人は数%では?良くは分からない。  (返答、竜騎士07) A.コミュニティが大きくなると、ネット初心者が多くなってきた。   より広いユーザーが書き込みをしている。   (返答、BT) === Q.ゲームは規模が自由。その辺はどう思う? A.ひぐらしは一本でライトノベル約三冊分ある。   今は「サウンドのベルは量が多い方が良い」と言う雰囲気があるのは否めない。   これには個人的には危惧している。   あくまでジャンルであって量ではないと思う。   だから例えば、短編をコロコロ出しても良いと思う。   「長編」と言う枠組みになって、縛ってしまっている。   Key、Leafから月姫辺り。この頃から「ボリューム=クオリティ」になっているのは否めない。   どのくらいのテキスト量なら受け入れて貰えるのか、模索中。  (返答、竜騎士07) ========終了、拍手======== こんな感じでした。 なお、実際は皆ですます調でコメントされていますので、その点はご注意を。 竜騎士07氏の言われる事は至極もっともで、色々示唆に満ちていると感じました。 有意義な講演だったと思います。 === 以上、レポート終了